つながる元気、ときめきキャンパス。大阪大学生活協同組合
<教員>5月のおすすめ本
★おすすめ本★ 書評


ISBN: 9784389421847
書名: アッシジのフランチェスコ 新装版
著者: 川下勝
出版社: 清水書院
本体価格: 1,200円

(1)『アッシジのフランチェスコ 新装版』 川下勝 著

 かつて基礎工学部の玄関を入ったところに,現在は基礎工国際棟の2階に,「ブラザー・サン・シスター・ムーン」という絵がかけられている.イタリアの巨匠フランコ・ゼフィレッリ監督による同名の映画がある.この映画を観たのは高校生の頃であるが,今でも私の最も好きな映画である.映画で流れるドノヴァンの歌も素晴らしい.ブラザー・サン・シスター・ムーンとはアッシジの聖フランチェスコのことである.美術ファンなら彼からジョットを思い出すであろう.この本は,彼の生涯を紹介するだけでなく,彼の思想の根本をなすものが何かを,キリスト教に疎い人にも分かるように,丁寧に説明している.フランチェスコと言えば,清貧という言葉がすぐに連想される.私にとっては,そのことよりも自然を慈しむ心に惹かれている.小鳥への説教,グッピオの狼などの逸話が有名であり,「太陽の賛歌」と呼ばれる彼の詩に彼の自然観が明確に示されている.また,カタリ派との根本的な違いをこの本はわかりやすく書いている.彼の思想が,中世において異端とされず,ローマ法王から布教の許しを得ることができ,今日では,宗教を超えて,尊敬される聖人として人々の心に刻まれている,カルト集団の創始者と彼との根本的な違いを述べた個所は,簡潔で明快である.
 最後に,基礎工にこのような絵がなぜあるのだろうか?その意味をこの本を読んで考えてみてはいかがであろうか.  



ISBN: 9784473042002
書名: 大倉源次郎の能楽談義
著者: 大倉源次郎
出版社: 淡交社
本体価格: 1,800円

(2)『大倉源次郎の能楽談義』 大倉源次郎 著

 著者の大倉源次郎は能楽の小鼓方大倉流16世宗家であり,昨年,60歳にして人間国宝となった人物である.と同時に,私の小学6年のときの同級生でもある.この4月に同級生が年に1度集まる夙川のお好み焼き屋の屋根裏に,多忙なスケジュールにもかかわらず,参加して,小鼓を演奏してくれた.本書に「鼓は生き物」と書かれているが,わずかの湿気で音色が大きく変わる様を目の当たりにすることができた.
 この本を選んだのは,同級生のよしみだからではなく,若い日本人に日本の芸術の代表格である能楽を知って欲しいからである.能楽の現場を長く経験してきた著者が,わかりやすい言葉で,能楽の構成,ルーツ・歴史,そして鼓の魅力など,様々な話題に触れている.
 本書は,「翁」についての話題から始まる.それは,「地球の始まりを表すと同時に,未来を描く」ものだそうだ.「翁」は.「未来から微笑む姿」であり,そのような考え方は「弥勒信仰」が下敷きになっているとのことである.そして,「翁」が微笑むことは重要なことだと合点がいってしまった.この章を読んだだけで,能楽の奥深さを感じてしまい,一気に読み切ってしまった.
 グローバル化とは民族の誇るべき文化を忘れることではない.その誇るべき文化を正しく理解・評価し,継承していくことがグローバル化においては益々重要である.「継承」とは,過去の遺産を単に引き継ぐことではなく,その時代に合った形で発展させることだと思う.本書には,現代の能楽師が外国の芸術とコラボする姿が描かれている.
「能楽は日本人の文化の柱である」と著者は主張する.この本を読めば,能楽に対する印象が一新するであろう.




ISBN: 9784167348229/
9784167348236
書名: 青が散る 上・下 新装版
著者: 宮本輝
出版社: 文藝春秋
本体価格: 590円

(3)『青が散る 上・下 新装版』 宮本輝 著

 新設大学の事務局の前で入学するか悩んでいた燎平の前で,真赤なエナメルのレインコートを着た娘が「お先に」と言って入学手続きを済ませて去っていった.この娘が夏子,大学の4年間,燎平が友達以上にはなれなかった片思いの女性である.
 この小説には,三人の「翁」が出てくる.まずは,勝ちにこだわり,変則的なテニスをする老人.この老人の見ながら貝谷が言う.「王道と覇道という言葉があるやろ,俺は覇道が好きや.あの爺さんのテニスは覇道や.」二人目は,夏子の父と一緒にケーキ屋「ドゥーブル」を営んできたペール.夏子の父親が急逝して,フランスに帰国することにしたペールは言う.「人間は,自分の命が,いちばん大切よ.」三人目は,死期を悟っていた老教授の辰巳圭之助.無断欠席して許しを請いに燎平が部屋に行ったとき,辰巳は言う.「若者は自由でなくてはいけないが,もうひとつ,潔癖でなくてはいけない.自由と潔癖こそ,青春の特権ではないか.」生意気な後輩のボングとのテニスの試合を教授室から観戦していた辰巳のところに,試合後に遼平は駆けより,「王道」と書いた色紙をお願いする.
 夏子は,フィアンセのいる日本デ杯候補の田岡と駆け落ちをする.その後別れて,田岡は元のさやに戻っていく.夏子の田岡への気持ちの変化を聞いた燎平が田岡に詰め寄る場面がある.私は,この場面が一番気に入っている.燎平が最も怒りを爆発させた場面でもある.
 この小説には,テニス部の部長で燎平の友人の金子,精神に不安を持ちながら幼いころからテニス界で名前が知られていた安斎,「人間の駱駝」という題名の歌でシンガーを目指すガリバー,4年間喫茶店で司法試験の勉強に励む木田,燎平に心を寄せながら医者と見合い結婚をして大学を中退する祐子,それに,ゆかり,端山,氏家など,個性豊かな人たちが登場する.彼らとの交わりの中で,成長していく燎平に,思わず「がんばれ!燎平!」と言いたくなる.そんな昭和の「戦争を知らない子供たち」世代の青春小説である.



ISBN: 9784004317074
書名: 経済数学入門の入門
著者: 田中久稔
出版社: 岩波書店
本体価格: 760円

(4)『経済数学入門の入門』 田中久稔 著
      
 日本の高校生にとって,2年生になると文系と理系のどちらを選ぶかが重要な悩みとなる.数学が苦手だから文系を選んだ生徒も多いのではないだろうか.数学が得意だから理系を選んでも,大学に入ると(大学で習う)数学が苦手という工学系の学生が増えてくる.無味乾燥に感じる記号の列の前で,「数学って本当に必要なの?」と思っている学生が多いのではないだろうか?数学は言語だと私は思っている.「え!言語?」という人も多いであろう.数学を使えば,論理的な思考を正確に記述できる.人とコミュニケーションを取るための手段が言語であるならば,数学もれっきとした言語である.この本は,経済学における様々な理論が数学によって的確に書けることを例示している.5章までで,高校の文系数学程度の知識で経済学の基礎的事項がちゃんと書けることを実感できるであろう.後半になると大学の数学を知らないとわかりづらいように思う.詳細を気にせず読み進めることをお勧めする.20世紀後半以降,より高等な数学を使うことで理論経済学が発展したことを実感してもらえれば十分である.
 ところで,私の専門はシステム制御理論である.7章,8章で紹介されている最適制御,動的計画法は私の専門分野でも重要な役割を担っている.いずれも学部3年生向けの私の講義で説明している.これらの理論は,様々な工学分野で使われており,最近話題となっている人工知能の分野とも関係がある.
自分の言いたいことを数学的に正確に記述できるスキルは,文系・理系を問わず益々必要になるであろう.著者の意図とは異なる見方になるが,人とのコミュニケーション手段として数学が有効であることを,経済学を例にとって説明してくれた素晴らしい本であると私は思う.この本を読んで,皆さんの専門分野の問題を数学的に表現してみてはいかがでしょうか?そして,その問題を解こうと数学的思考を始めたとき,無味乾燥であった記号の列がビビッドな知的思考空間に誘ってくれるでしょう.



ISBN: 9784167651701
書名: その数学が戦略を決める
著者: イアン・エア−ズ 山形浩生
出版社: 文藝春秋
本体価格: 850円

(5)『その数学が戦略を決める』 イアン・エア−ズ 著 山形浩 訳

 原著は,2007年に出版された「Super Crunchers: Why Thinking-By-Numbers Is the New Way To Be Smart」である.当時はまだビッグデータという言葉は使われていない.ビッグデータに関する本がたくさん出ているのに,時代遅れとも思える本をあえて紹介しようと思う.今,この本を読み返しても,多くの示唆を得ることができるからである.データ解析の技術を知りたければ,最新の本を読んだ方が良い.しかし,「絶対計算」と呼ばれる「大量のデータを解析して様々な要素間の関係を定量的に評価する手法」の特徴を手っ取り早く知りたければ,この本が一番適している.統計の専門的な内容はなく,適用事例を中心に書かれている.絶対計算を使えば,専門家に比べて圧倒的に優れた意思決定ができると本書は主張してい
る.
 第5章で,「アルバート・アインシュタインは,『本当に価値のあるのは直観だ』と述べた.多くの点で彼は今でも正しい.だが,直観はますます絶対計算の前段となりつつある.」と書かれている.たくさんのデータをやみくもに集めても絶対計算は有効に働かない.どんな意思決定をしたいかを明確にして,そのためにはどんなデータが必要なのかを適切に判断するときに,人間の直観が重要だ.それを前段というのであれば,多くの要素を使う絶対計算では,人間の優れた直観が必要不可欠である私は思う.
最後に,一言.本書ではデータベーストなアプローチの,前掲の「経済数学の入門の入門」ではモデルベーストなアプローチの重要性をそれぞれ主張している.いずれのアプローチも数理的手法を基礎においている.しかし,ときどき,この二つのアプローチは対立的構造で語られることが多い.本当にそうなのだろうか.私は相補的であると思っている.皆さんはどうお考えだろうか?阪大には,「数理・データ科学教育研究センター」という,この二つのアプローチを基礎から勉強できる環境がある.



▼この書評に対するみんなの感想▼

感想を書き込みたい書籍名をタイトルに入力してください。
コメントは512バイト(全角256文字)以内しか表示されませんので、ご注意ください。

URL NOT FOUND


▼ 2018年6月の担当教員 ▼
潮 俊光先生


潮 俊光(うしお としみつ)先生プロフィール

基礎工学研究科 システム創成専攻 社会システム数理領域教授
専門はシステム制御理論です。最近は,計算機を用いて上手くものを動かすにはどうすれば良いかを考えている。 また,研究室では学生たちがドローンを自作している。
大阪大学生活協同組合 TEL:06-6841-3326(代)