★おすすめ本★ |
★書評★ |
ISBN: |
9784861999895 |
書名: |
寿司虚空編 |
著者: |
小林銅蟲 |
出版社: |
三才ブックス |
本体価格: |
1,185円 |
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(1)『寿司虚空編』 小林銅蟲 著
「「数が大きいこと」を怖れる必要なんてどこにもねえ…… 「数が大きくないこと」 こいつを何よりも怖れなきゃあ ダメだ」 「巨大な数」と聞いて、あなたはどのような数を思い浮かべるだろうか。10000
は確かに大きな数だが、10000+ 10000 や10000 × 10000 よりは小さい。しかしそれらの数よりも1000010000 の方がはるかに大きいし、100001000010000 はそれらと比較にならないほど大きい(ちなみに、観測可能な宇宙に存在する素粒子の数は1080
から1085 程度である)。ここまで来ると文字通り想像を絶する大きさになることがわかるだろう。
aaa… (aがb個)のようにa にべき乗を繰り返し行って得られる数を「a↑↑b」と表記し、a↑↑b の計算を「テトレーション」と呼ぶことにしよう。このとき10000↑↑10000=1000010000… (10000 が10000 個)だが、べき乗の繰り返しと同様の要領でテトレーションを繰り返し行うことによって、これよりもはるかに巨大な数を得ることができる。aにテトレーションを繰り返し行って得られる数を「a↑↑↑b」と表記する(a↑↑↑b =a↑↑b↑↑a↑↑b(aがb個))。このとき10000↑↑↑10000=10000↑↑10000↑↑…↑↑ 10000(10000が10000個)である…… 。
しかしながら、以上で紹介したすべての数は、『寿司 虚空編』で取り扱われる数に比べればほとんど0 に等しい(!)。そろそろお気付きになっている頃と思うが、本書は寿司漫画ではなく、寿司屋店内で寿司屋店員たちが巨大数の話をする(やさしい)巨大数漫画である。「数が大きいこと」を怖れる必要はどこにもない。「想像を絶する大きさの数」に魅了された人間たちによるめくるめく巨大数の世界を、ぜひ堪能していただきたい。
【評:森川勇大】
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ISBN: |
9784167140038 |
書名: |
快楽主義の哲学 |
著者: |
澁澤龍彦 |
出版社: |
文春文庫 |
本体価格: |
500円 |
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(2)『快楽主義の哲学』 澁澤龍彦 著
私たちは、逃れがたき型枠に矯められてはいないだろうか。本書は、私たちをがんじがらめする、社会が作り出した「常識」というこの型枠を打ち破る力を秘めている。
澁澤は「幸福」と「快楽」を峻別したのち、前者を唾棄すべきものとうそぶく。単なる「苦痛の欠如」に過ぎない「幸福」はせせこましく、「快楽」の瞬間的な陶酔にはまったく及ばないとする。そして澁澤はとりわけ性的快楽に焦点を当てその美学を滔々と読者に説き、また、快楽主義における英雄譚を語るのである。
ときに、表題の〈哲学〉という言葉に怯むなかれ。本書においては、澁澤の軽妙な筆致によって、肥沃な知識に裏打ちされた卓抜な洞察が飲み込みやすくエッセイ形式で書かれている。
もし、あなたがこれまで入念に築き上げてきたその倫理や常識を脅かされたくないのならば、この一冊はおすすめできない。全員が本書を読む必要があるわけではない。だが仮に、あなたが本当に快いと思っているものが、上に挙げた道徳的なものによって抑圧・制限されていると感じているならば、本書を読むべきである。澁澤は私たちへ快楽に身を委ねる勇気をもたらす。その意味において、本書はアジテーション(煽動)的である。
五十年以上前の著作だが、「清潔さ」が至上のものとなっている現代にあっては、あえて快楽に「堕する」ための書として、本書は有効であるだろう。
快楽に生き、快楽に死のうではないか。私はそうすることにする。
【評: 佐原希生】
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ISBN: |
9784480435019 |
書名: |
星か獣になる季節 |
著者: |
最果タヒ |
出版社: |
ちくま文庫 |
本体価格: |
580円 |
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(3)『星か獣になる季節』 最果タヒ 著
アイドルを愛するとはどのようなことか? それは見覚えのあるヲタクが集う狭く煙たいライブハウスで代わり映えしない取り合わせのグループが割れた爆音のなか低いステージを十五分ごとに入れ替わるのを見た後、この人たちは何をやっているのだろう、と物販列で考えてみることではない。爆沸きしたワンマンの帰りにヲタクとの飲み会で「実際メンバーってこの先なんかあるわけじゃないのになんでこんなことやってるのか全然わかんないですよね。究極的にはそこがわかんないんですよね。でもだからこそこっちも頑張ろうって思えるんですよね。こっちの生活だってよくわからないしその中で戦ってるんですよ」と言ってみることではない。十八時から始まる卒業イベントに十一時間参加してそこで朝四時に連絡先をカードに書き込み花束に仕込むことではない。本書は次のように答える。それは死や殺人をも辞さない空回りである。空回りと同時に自分を肯定すること、狂気に等しい誠実さ、どこにも届かない応援。ありきたりな答えかもしれない。しかし本書はこのすべてを地で行く。そしてこの後に誰もが正しさをぶつけあう季節に移行する。ただ自分で自分を肯定するために… 。
【評: 阪大哲学研究会希哲会】
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ISBN: |
9784150120009 |
書名: |
ソラリス |
著者: |
スタニスワフ・レム |
出版社: |
早川書房 |
本体価格: |
1,000円 |
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(4)『ソラリス』 スタニスワフ・レム 著
はじめて私に「ハマった」としか言いようのない体験をもたらした本です。ポーランド出身のSF小説家レムによる本作は、筋書きもSFらしく、架空の惑星ソラリスを舞台に、心理学者である主人公がソラリスに観察員として送り込まれる、というものです。当然、ここまで読まれたあなたが、読者(候補)として気になる疑問は、ソラリスという惑星の抱える秘密とは?
主人公がソラリスでの目まぐるしい経験の果てに見出すものは何なのか? といったことでしょうが、そうした通り一遍の説明をここで私が述べることはできません。ひとつだけ付け加えるなら、これは「理解し得ない知性との遭遇」の物語です。私たちは「未知の知性」を思考するとき、宇宙人をありきたりの表象で、言語を扱うことができる、人間と同様の思考様式を持つものと想定します。けれど広い宇宙にありうるのは本当にそれ「だけ」でしょうか?
まさに、主人公がソラリスという惑星で出会うのは「それ以外」、事前の想定も事後の言語化も不可能なものです。逆説的にいうなら、ソラリスに待ち受ける「もの」が何なのか、それを私が読了した後でもはっきりと語ることができないという事実にこそ、この小説の特異さがあらわれているのです。
レムは序文で、『ソラリス』という小説が生まれたのは、誰もが楽しめる一遍の小説を書こうと思ったからというよりは、広い宇宙にありうる人間とかけ離れた知性、という自分の「思いつき」を小説という媒体で表現することを選んだからだ、という趣旨の内容を述べています(ちなみにこの小説は二度、映画化されていますが、作者レムはこの自作の映画化にもれなく酷評を書いたという逸話があります)。未知との遭遇といえば映画『メッセージ』が昨年、話題になりましたが、医学を修め文学者となった鬼才レムの描いた「遭遇」は、今だからこそ誰にとっても斬新な体験となることでしょう。 【評:宮本紘子】
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ISBN: |
9784062880091 |
書名: |
ニッポンの思想 |
著者: |
佐々木敦 |
出版社: |
講談社 |
本体価格: |
800円 |
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(5)『ニッポンの思想』 佐々木敦 著
言わずと知れた批評家・佐々木敦による「ニッポンの思想」史である。ニュー・アカデミズムと呼ばれた潮流が出現した1980年代以降のニッポンの思想が、著者自身の視座から〈歴史=物語〉として記述される。80年代の浅田彰、中沢新一、柄谷行人、蓮見重彦、90年代の福田和也、大塚英志、宮台真司、そしてゼロ年代の東浩紀。自らを熱心な「読者」として位置づける著者は、各ディケイドの「プレイヤー」の思想を明快に整理し、その「流れ」を描き出す。その態度は、まずは「読者」たるしかない我々にとって大いなる範例となるであろう。シーソーの如くに繰り返される思想の往還と、唯一そこから降りそして新たなゲームを開始した東。すでに本書が見据えた「未来」としてのテン年代も終わりに生きる我々がどのような思想の果てに立っているのか。それを知るための契機として本書は最適である。新鮮さが命の「批評」、その新鮮さを感じ取るために知っておくべき「歴史」を与えてくれる。
【評:野上】
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